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天界はなだらかな大地により形成されている。南部の面積は殆どが森林で占められており、北上するにつれて開けた草原地帯となっていく。非常に狭い世界で、創造された世界の中で最も面積が小さい。
そんな小さな世界の南部に神と天使が降り立っていた。
期せずして、始まりは唐突。それは、日常に於いて確たるもの。
「…あ、大変だ。ヒュージス、神界に帰れなくなったぞ」
空は澄み渡り、小さな鳥の群れが可愛らしい鳴き声を降らせながら、突き抜けんばかりの蒼空を渡る。青々とした森には心地よい風が吹き、爽やかな香りを残して足早に去って行く。何事もない昼下がり。そこへ、予期せぬ神のわざとらしい不吉な一言。
「…。ヴィアヌ神、貴方様は、このようになることをご存知だったのでは?」
ヒュージハルトは純白の白天使。天界の人々は彼ら白き天使を敬う。そして、羨望する。
「俺が?何で?」
ヴィアヌダルシュは美を司る芸術の神にして語り部。容貌はまるで女神だが、歴とした男神。神としての生を受けるとき、勝利の女神ティルティナと本来与えられるべき性別を間違えられた。其故、ティルティナは男神と紛う雄々しさを兼ね揃えた女神である。
「神界から天界へ降りることを嫌う神がここにいらっしゃること自体おかしいでしょう」
天界の上には神界がある。天界の下には下界がある。人間たちは下界に住む。つまり、神界と天界は神々が支配する神族たちの世界。だが、高貴な神々は、神界から外へは出たがらない。劣等(声には出さないが、そう思っているに違いない)なものには触れたくないらしい。
「おい、おい、俺を他のちんけな神どもと一緒くたにしないでくれよ」
「どのような意図があってお見えになったかは存じませんが…」
「あー。分かった。分かりました。ヒュージス、君はもっと物事を柔軟に受け入れるべきだと思うんだよね。堅苦しく考え過ぎ」
ヴィアヌダルシュは面倒臭そうな顔をしながら片手をひらひらさせて受け流す。そうかと思ったら、今度はパッと明るい表情を見せた。
「そこで、君に課題を出そうと思ってね。手始めに何とかしてやって欲しい子がいるわけだ。どうにも道を間違えたらしい」
そうして、彼の足元からひょっこりと、その子が姿を現した。ヒュージハルトは、おや?と思う。
極めて稀に下界から天界へ迷い込んでくる人間がいるという話しは聞いたことがあったが、そこにいたのは、どことなく瞳が虚ろな、まだ幼い少女だった。
「…この少女、ただ迷い込んできた訳ではなさそうですね」
「お、流石だね。何だか知らんが、呪術で記憶が消されているみたいなんだ。ずばり、魔界から番人が消えたことと関係があるんじゃないかと俺は睨んでいる」
ヴィアヌダルシュは厄介事を持ち込むことで有名。しかし、天使が神の為さんとすることに、否定的な態度を取ることは好ましくないとされる。
「魔界の番人が消えたのですか?」
「ここに来るちょっと前にね」
「そのような大切なことは…」
「はいはい。悪かったよ。謝るよ」
どう見ても悪びれた様子もないが、ヒュージハルトは取り敢えず話を続ける。
「…確か、魔界を守る番人には魔界への出入りを制限する秘術が与えられたと聞き覚えていますが」
「魔界は危ないからなぁ。悪魔が魔界を飛び出したら豪いことになるし、魔界に足を踏み入れれば命の保障も無い。出入りの制限は、それは、それは重要なことであってだな」
「その通りだと思います」
「だろ?しかも、その制限は魔界のみで有効というわけではない」
思った通りの話しが見えてくる。
「天界が今、その制限下にあるということですね」
つまり、神界には戻れないし、外部(神界だけと断定出来ない為、敢えて外部と記述)からは天界に入ることができない。そうして、もう一つ重要なことは魔界が野放しにされているということである。
「ほんと、ヒュージスは話しが早くて助かるよ。なぁ、レスちゃん」
人間の少女の名前はレスというらしい。彼女は話しを振られたことには全く気にも留めずに(もしかしたら聞こえていないのかもしれない)森の奥にある村の方角を眺めていた。ヒュージハルトはそれに気付き、声を掛けてみる。
「あちらの方角にはアレスレクトの村がありますね」
アレスレクトの村は、最南端に在るのどかでゆったりとした時が流れる小さな村だ。最後の村とも称されるが、はっきりとした理由は分かっていない。
先程までの晴天が嘘のように陰りを見せ、ヒュージハルトの言葉と共に太陽が雲に隠れると、辺りがほの暗くなった。
「…来る」
レスが呟いた、次の瞬間。
悲鳴のようなものが聞こえたかと思うと、突風が森中を襲い、切り裂くような風が木々を折れんばかりに傾がせ、轟々と唸りながら辺りを駆け巡った後、ヒュージハルトたちの目の前に突如として悪魔が現れた。
竜のような、獣のような四足の悪魔で、鼻先から額にかけて鋼のような殻で覆われており、鼻先には鋭利な一本角が生えている。額には太陽の如く燃えるような赤い宝石が輝いていた。背には骨が変形して出来たのだろうか?そう連想させる角が生え、最後の特徴である尾は、完全に竜と見て取れる別の生体だ。混合体の悪魔にしては美しいフォルムだが、周囲に黒い霧のようなものを漂わせ、それがバチバチと音を立てている姿は邪悪
そのもの。
そのもの。
「あれまぁ。こんなデッカイのが瞬時に出て来るとは。やっぱり悪魔は侮れないやね」
ヴィアヌダルシュは臆することもなく、関心しながら悪魔を仰いでいる。
「ここは私が…」
「お願い!殺さないで!!」
レスの唐突で哀願とも取れるような極めて悲痛な叫び声に、ヒュージハルトとヴィアヌダルシュは少なからず気圧され見合わせた。
「あの子を助けてあげてください。戦いたくなんてない。怖いだけなの。だから…」
「レスちゃんは、悪魔の気持ちが分かるのかい?」
こくりと頷くレスを見て、ヴィアヌダルシュは「ふぅん」と気のない溜息のような声を出し、何故か彼女に髪の毛を一本くれるようにと頼んだ。
「君の髪を糧にして竪琴を作るんだ。敵意や戦意のない相手になら俺も力になってあげられる」
レスは思い切りよく髪を引き抜くと、ヴィアヌダルシュに託した。そして、彼が何事か呟くと、レスからもらった髪が白銀の小振りな竪琴へと姿を変えた。
「うーん。なかなかの出来じゃない?ヒュージス。これなら慈愛に満ちた曲をプレゼント出来るだろうさ」
「もうそろそろ時間切れのようですよ」
その遣り取りの間、悪魔は大人しくしていたが、直ぐに低い声でグルグルと唸り始めた。警戒しているというよりも、苦しんでいるような印象を受ける。
「こんなに近くで俺の美声が聞けるんだから、皆の衆、畏まって聴けよな」
繊細な指先が弦を弾くと、竪琴はえも言われぬ透明で清らかな音を奏で始めた。その旋律に合わせるヴィアヌダルシュの歌声は彼の見かけとは違い、低音で、安穏とした柔らかで優しい音色を響かせる。周囲の音が吸い込まれ、静寂に帰すと、鳥たちや動物、木々や空、全てのものが押し黙り、耳を傾けているかのようにさえ思えた。
「もう、大丈夫みたい…」
悪魔の周りに漂っていた黒い霧が弾けるのと同時に、レスは意識を失ってその場に倒れてしまった。
最初は旋律がおぼろげに聞こえてくるだけだったが、次第に焦点が合うようにしてはっきりとヴィアヌダルシュの歌声が聞こえてきた…かと思うと。
「くすぐったい!!」
あまりのくすぐったさにレスが飛び起きると、目の前にいた犬のような生き物がびっくりして後退った。どうやらこの犬のような生き物がレスの頬を舐めていたらしい。
「お、レスちゃんがお目覚めだ。よかったな。わんころ」
ヴィアヌダルシュは、わんころと言っているが、犬のようなとしか言い様がないからの表現であって、どう見ても犬ではない。尻尾はまるで蛇のようだ。そういえば、先程の悪魔と類似している。
「あ、あのわたし…」
レスは少し混乱した頭を整理しようとヴィアヌダルシュに助けを求めた。
「ふむ。レスちゃんの心ここに在らずって感じの目も治ったみたいだね。俺って流石だろ?」
「え?あ、はい」
ヒュージハルトが溜息を吐いている。レスはよく分からないまま肯定したが、助けを求める相手を間違えたようだ。
「今までのことを覚えていらっしゃいますか?」
救いの手を差し伸べてくれたのはヒュージハルトの方だった。彼は、レスと視線を合わせるために片膝を柔らかい草の上につく。
「え、えと、ここへ来た時のことは何も。あくまってよばれてたのの記憶が、ぼんやりとあるくらいです」
「では、その悪魔と対峙…遭った時、貴女が発言されたことは?」
レスは、ポカンとしてヒュージハルトをまじまじと見た。
「?わたし、何か言いましたか」
ヒュージハルトはヴィアヌダルシュに目配せする。
「まぁ、まぁ。それより、そこにいるわんころは君が救ってあげたその悪魔だよ」
ちょこんと姿勢良く座っている姿は犬に見えなくもない。黒々としたいわゆる団栗眼の大きな瞳が愛らしい。
「この子が…?」
「悪魔は元々、そこら辺にいる動物だった生き物なんだ。其れこそ、鳥や犬やトカゲや魚みたいにね。だからこいつも可愛くて当然ってわけさ」
ヴィアヌダルシュがひょいと悪魔を抱えると「クワァ」と間延びした緊張感のない声で悪魔が鳴いた。
「レスちゃん、これから君にはちょっとばかし大変な道のりを歩んでもらうことになる」
ヒュージハルトが、すっと立ち上がり、ヴィアヌダルシュに視線を移す。少し呆れ顔(だと思われる)だったヒュージハルトの面持ちが幾分真剣になった(気がする)。
何分、彼は表情の変化に乏しいため、その中性的な面立ちから訴えてくるものは極端に少ない。だからといって、意図的に表情を殺しているようにも見えず、極自然な感じではある。
「まさか、番人と合わせるというお考えですか?」
「当たり前だろう。このまま有耶無耶にはできない」
幾ら神の言うことであっても、人間はとうの昔に神族たちの世界から追放されており、神族たちの世界においては在ってはならない存在だ。これは世界の秩序に関わることであって、本来なら一柱の言い分だけで決めてしまうことは出来ない。
「人間はこの世界にいては…」
「あ、そーゆー理屈でレスちゃんを見離そうってわけ?意外と薄情なヤツだな~」
ヴィアヌダルシュが他の神々と反りが合わないのは、彼に保守性がないことも理由の一つとして挙げられる。
「ヴィアヌ神、ふざけている場合ではありませんよ」
「ヤダなぁ。ふざけてなんかないよ」
にこりと笑う彼の笑みには男女を問わずハッとさせる魔術を持っている。この魔術がかなり彼の行動をスムーズにさせる効果があることを本人は心得ていた。
ヴィアヌダルシュは、渋々承知したと思われるヒュージハルトから、レスへと話す相手を変える。
「いいかい、レスちゃん、君はこれからこの世界を自分の足で歩いて、目で見て、耳で聞いて自分の力で村や町を回って、最後には、ここから一番遠いお城に行かなくちゃいけない重大な任務を背負うことになる。流石にそこにいる白天使はおまけでつけてあげるけどね」
ヒュージハルトは特に表情を変えることなく聞いている。
「このわんころみたいな悪魔が、それぞれの村や町に居て、きっと君の邪魔をするだろう。もっと、もっと、凶悪で恐ろしい悪魔もいるかもしれない。でも、君は…いや、君じゃないと出来ないことなんだ。どんな困難が待っていようと、どんなに辛いこと、悲しいこと、理不尽だと思うことがあっても必ず成し遂げて欲しい」
彼は、最後に優しく微笑んで、さえずるように口にした。
「愚かな神様からのお願いだ」
ヴィアヌダルシュの手から、悪魔がレスに渡された。ふわふわとした毛並みと、体温の温かさは、生き物の命の温もりを直に伝えてくれる。
「あの、わたし、うまく言えないんですけど…」
いつの間にか空には茜色の兆しが見える。レスは悪魔を抱えながらおずおずと口にした。
「ヴィアヌさまに会えてよかったです」
レスの言葉を聞くと、何故か彼の表情があからさまに曇った。
「そう…。でも、それは今と後とで変わってくることかもしれないよ。とても残念なことではあるけれどね。何せ、始まったばかりなんだから」
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